2013年08月22日

「加護亜依」商標登録問題

元モーニング娘の「加護亜依」さんと以前所属していた事務所との間の問題が商標権の問題として話題になっているようです。

なんでも「加護亜依」という名前については事務所側が既に商標登録しているので、本人がその名前で芸能活動を続けることは許さない!・・・ということらしい。
・・・ということで私なりにこの状況について法的に考えてみました。


(1)先ずは権利の確認から
 事務所側が主張する商標権が本当に存在するのか念のため調べてみました。権利が存在しなければそのそも論として問題となりません・・・が確かに存在してますね。特に放棄等もされていないようです。
 
 権利者  :株式会社メインストリーム
 登録番号 :第5287159号
 登録日  :平成21年(2009)12月11日
 商標   :加護亜依(標準文字)
 区分   :41類
 指定役務 :演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,歌唱の上演,ダンスの演出又は上演,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育に関する情報の提供,英語教育に関する情報の提供,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する企画及び運営,英会話の教授,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育,高校卒業資格取得講座における知識の教授,通信教育による知識の教授
5287159.jpg
※画像は特許電子図書館より

 このように権利が存在する以上、権利者には他人を排除できる権利が認められます(商標法第25条、同第37条)。
 ということは、事務所側が主張するように加護さんは「加護亜依」という名前で芸能活動を続けることができないのでしょうか?


(2)権利効力の及ばない範囲
 商標法では権利の効力が及ばない「聖域」がいくつか設けられています。その一つが自己の氏名等を普通に用いられる方法で表示する場合です。

 具体的にはこのように規定されてます。
 商標法第26条1号
 『自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標』

 ・・・ということは、「加護亜依」という名前が加護さんの『本名』であれば問題ないということになります。「商標登録時点では本名でなかった」・・・等についても問題となっているようですが、少なくとも今現在本名であれば、使用し続けることは可能です。
 更に本名でなくとも、著名な芸名にもこの規定は及びます。問題となるのは『著名』に該当するか否か・・・という点ですが、一世を風靡したあのモーニング娘メンバーの(しかも当時の主要メンバーの一人の)名称ですからこれを著名と言わずとして何を著名と言うか・・・と思います。

 よって「普通に用いられる方法で表示する」限りは問題ないということになります。この「普通に用いられる」が何かというのはなかなか難しい問題ですが、多くの芸能人の方々が自己を特定するために使用しているのと同様の名前の使い方であれば問題になることはないでしょう。


(3)無効理由の存在
 商標法には実はこんな規定があります。
 商標法第4条
 『次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。』・・・とし、その第8号に、
 『他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。) 』・・・と規定されています。

 要するに、承諾なく他人の名前(「氏名」ですからフルネームですね。)を商標登録することはできません。これは個人の人格権を保護するために設けられている規定です。だって知らないところで勝手に自分の名前が商標登録されたらこまりますからね。もしこれに違反して登録されていた場合には、その権利には無効理由が存在するという事に・・・(商標法第46条)。更に未だ登録日から5年を経過していないので、その無効理由は有効となります(商標法47条)。

 しかし出願の経過を見てみると、どうやら本人が商標登録することについて承諾をしている模様。よって無効理由は無い(権利自体は有効)と考えてよさそうです。
 但し他にも「加護亜依」という氏名の他人が当該権利の出願時及び査定時において存在していた可能性は否定できないので、もしそういった方が存在して権利取得に「承諾しない」ということであれば、当該権利には無効理由が存在する事になります。但し除斥期間が近付いている・・・という点は気になります。


 他にもいくつか気になる観点(例えば指定役務の観点)はありますが、(2)で説明した通り、加護さんが「加護亜依」という名前で芸能活動を続けること自体は基本的に何ら問題ないと判断します。
 権利者である事務所サイドは色々感情的な部分もあって主張をしているようですが、商標法的に考えるとちょっと的外れな主張であると言わざるを得ない・・・といったところでしょうか。

 但し当事者(加護さんと事務所サイド)の間に別途何らかの契約が交わされているような場合(例えば事務所との契約期間経過後は「加護亜依」という名称は使用しないといった内容の契約)は別ですよ。あくまで商標法の観点から判断してみました。


付記弁理士 岩崎博孝

 
 
posted by 弁理士 岩崎博孝 at 21:17| 知的財産のこと